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アラフォー
座談会
思わず青ざめた“しくじり体験”から、感激の成功ドラマまで。
工程管理の大変さと手ごたえを知り抜いた工作グループのベテランたちが、「船づくりの現場」について語りつくします。
S・Kさん
広島県出身
38歳
機電装チーム機装係
副課長
T・Kさん
香川県出身
47歳
組立チーム
チーム長(課長)
K・Tさん
香川県出身
41歳
加工チーム加工係
係長
T・Kさん
香川県出身
46歳
塗装チーム塗装係
主任
そもそも、造船業界に興味を持ったきっかけは?
S・K
学生時代の専攻は、造船とは何の関わりもない環境学部 環境情報学科。なのに、なんで造船会社を選んだか。一言で言うと、海つながり、ですね。昔から釣りが好きで、海を見るだけで癒されていました。それで、海に近い仕事といえば…造船かな?ということで、この会社に入りました。
T・K
私も海つながりです。祖父は、瀬戸内海の島に渡る小さな客船の船長。父は造船マンで、よく父に連れられて港に行っては、「この船はなぁ、ほら、あの造船所で造られたんだぞ」とか話してくれたりして、船は小さい頃からとても身近な存在でした。
T・K
私はずっと塗装一筋ですが、キャリアの出発点は新卒で入ったFRP(強化プラスチック)のメーカー。建築物の外壁塗装などを経験し、どうせ塗るならもっとデカいものを!と考えて造船業界に転職し、1年ほど前、ご縁があって多度津造船へ。塗装の仕事は長いですが、この会社では新人です(笑)
K・T
私は正直、ノープランでした。造船業界に興味があったかというと、そんなこともなくて。求人データを見比べて、けっこう給料もいいみたいだし、ここにしようかと(笑)
S・K
ホントに正直ですね(笑)
K・T
ただ仕事には、入社後けっこう早い段階でのめり込みましたよ。いろんな機械を使って鋼板を切り出し、形にしていくのがとにかく新鮮で。造船、面白そうだな!と。
これまでに建造に関わった船は何隻くらい?
S・K
自分でエンジンを積んだ船でいうと、たぶん100隻くらい。もうちょっと多いかも。
T・K
私も同じくらいだと思います。まあ、23年やってますから(笑)
T・K
私は設計が長かったので、30~40隻かな。
K・T
私は大型船に関わっていたので、今のPCC-Lを入れて17隻。
その中でも、特に心に残る仕事は?
S・K
いちばん思い出深いのは、初めて機装工程の始まりから引渡しまで任された船ですね。入社3年目で、船種はタンカー。トラブルも山ほどあったけど何とか乗り越え、エンジンを載せ、舵やプロペラもつけて、配管をつないで燃料油や潤滑油や冷却水を通して…と。最後の引き渡し式では、外国人の機関長から“Thank you very much!”って力いっぱい握手されました。最高にうれしかったですし、達成感がありました。あの場面は何度経験しても、同じようにうれしいもんです。
T・K
関わった船はどれも思い入れがあって、選べないよね。船の寿命は最長で25年。関わった船の大半が今も世界のどこかを航海しています。実は、業界では常識だけど、航海中の船の現況、今どこに向かって何ノットで何トンの荷物を積んで移動中か、衛星情報で追跡できるサイトがあるんです。仕事の合間にそのサイトを開くのが、ひそかな楽しみ。つい先日も、少し前にグループ会社の丸亀工場に出向中に設計し、多度津造船に戻って建造に関わった10万トン積みバルクキャリアの現況を追っかけていました。
T・K
「マリントラフィック」ですね! 私も見てますよ。先週カナダにおったのに昨日はインド洋におって、おお今はスエズ運河を通っている!とかね(笑)
K・T
つい気になって…(笑)。誰でも自由に閲覧できるサイトなので、今これを読んでいる学生のみなさんもぜひ、「マリントラフィック」で検索してみてください。
S・K
K・Tさんが切ったブロックの切断面は、それはもう美しい!と社内でも評判です。せっかくの機会だから、仕事のこだわりを学生さんに伝えましょうよ。
K・T
そうですか、それじゃあ… 加工は建造における最初の工程で、船が形になるところには関わらないんですが、自分の腕が上がるのをリアルに確かめられる面白さがありますね。機械を操作するのは主に職人さんですが、アドバイスとか整備の手配とか、工程管理者の技量が問われる役割がいろいろあるので。
K・T
機械というと、NCプラズマ切断機とか…
S・K
はい、あと1000トンプレスとか、小型の利材を切るアイトレーサーとか、いろんな工作機械を動かします。機械に不具合が出たらメーカーさんを呼びますが、すぐ来てもらえない時は、自分たちで対処。故障原因を探りあて、プラズマを射出するトーチリードをその場で交換して…とかね。メカ好きにはこたえられない仕事じゃないでしょうか。
K・T
どんなに経験を積んでも、毎回のように新しい技術というか、未知の境地に出合えるのも、この仕事ならではの面白さだという気がします。現在作業を進めているPCC-Lも、今までの主軸だったバルクの知識だけでは太刀打ちできない部分があって。バルクのホールドは耐摩耗性の強い塗料を使うけど、PCC-Lはエポキシ系の塗料を多く使用…というように、塗料の種類から使用量、乾燥膜厚、あらゆる場面で新しい知見が求められます。私はアラフォーどころか、そろそろアラフィフに近い世代ですが(笑)、若手の頃と変わらないくらい、毎日が新鮮ですよ。
若手時代の“しくじり体験”は?
S・K
失敗談ですね、ありますよ。船はプロペラの推進力で動くのですが、その大事なプロペラの圧入検査で引っ掛かってしまい、やり直しに。プロペラのサイズは約6m。圧入というのは、直径が70cm以上あるジャッキを使って、プロペラを軸に押し込んでいく工程です。この時は「10mm~15mmの間で圧入する」という規定に対し、わずか0,2mm足りず… 原因は、私の初歩的な計算ミス。これも確か、入社3年目のことです。プロペラまわりの工程は1隻につき1度しか経験するチャンスがないので、以後は特に集中して臨んでいます。
T・K
切削や切断など、加工作業ではいろんな機械を使うので、安全管理にはことのほか気を使います。重大事故にはほど遠くても、つい目を離した隙に機械どうしが接触したりすると、私も厳しく怒られたし、今でもしっかり注意しますね。それに比べると、設計からおりてきた図面を読み違えて、切る寸法を間違えたりしても、溶接してつなぎ合わせることもできるし、そんなにシビアなことにはなりません。まあ、どっちも滅多にないことですが。
T・K
若手にありがちなのは、塗装後の膜厚検査時のミス。膜厚200ミクロンの規定を150ミクロンと勘違いして検査…というようなことは、まあ、なくはないですね。でも、塗料の種類や塗る順番を間違える失敗は、いくら若手でも絶対にダメ。何も難しいことではなく、工作図、塗装仕様書をしっかり読めば必ず防げるので、現場でも特に力を入れて指導しています。
K・T
なるほど、鋼材の表は一点鎖線、裏面は点線で表記…というようなことですね。私は設計から異動して2年目ですが、協力会社さんへの伝達というところで少し苦労しています。設計者どうしなら、だいたいの方向性を話せば伝わる場合が多いけど、組立はミリ単位の施工を行う現場だからでしょう、細かすぎるくらい具体的に伝える必要がある…とまあ、現場を知らないと、ちょっとわかりにくい話かもしれませんが。
最後に、この会社のいいところ、「多度津造船らしさ」とは?
S・K
横のつながりが密というか、チーム間の垣根みたいなものがほぼなくて、お互いに何でも話せる空気ですよね。機装の場合、前工程の組立・外業チームとすり合わせる場面が多いんですが、「この図面のここ、ちょっと違ってません?」とか、相談するとすぐに動いてもらえます。
K・T
そこはお互い様。ひとつには規模感もあるかな。協力会社を含めると1000人超になるけど、社員だけなら200人に届かない。
K・T
それはありますね。全員の顔と名前を覚えるのに、それほど時間はかからない。
K・T
業界関係の会議で他社に行ったりすると、事務所に入った時の雰囲気はウチの方が全然いいな…と、多度津造船の良さを再認識したことがあります。
K・T
あと、上司に相談しづらい、みたいな変な空気がないですよね。
K・T
というか、役員ともフランクに話せます。「先に帰ります」という役員に「あれ、もう帰るんですか」とかね(笑)
K・T
社内だけじゃないのがまた、いいですよね。ついさっきも役員が、このサイトの制作会社の人たちに「(写真は)ええの撮れたか?」と、普通に声かけてましたよ。
K・T
それと、最近始まった個別面談や社長への意見メールなど、若手が上司や役員に気軽に話せる仕組みづくりも進行中。これなんかも、すごくいいことだと思いますね。
K・T
もともと若手に任せる会社だけど、最近は特にその傾向が強まっています。組立チームの若手にも、いずれは他の工程も経験して、工作グループ全体、ひいては多度津造船全体を見て仕事ができるようになってほしいと、折に触れて伝えています。
K・T
塗装でも、若手に「失敗は我々がフォローするから、何でも思い切ってやってみろ」と言っています。
K・T
機電装も同じで、さきほどお話ししたプロペラの圧入のように、経験機会が限られた作業ほど、任せるようにしています。失敗も含めて、何事も経験を通じて体で覚えるのが一番ですから。
K・T
PCC-Lを形成するブロックは、全部数えると相当な数になりますよね。
K・T
12層あるカーデッキを含めると400個近いかも。
K・T
そう考えると、船づくりと会社って、似てません?
K・T
1個1個のブロックをつなぎ合わせて、膨大な機器を配管や電線で接続して船になる。同じように、一人ひとりの力を合わせて、多度津造船になる。なるほど、似ています。そっくりと言ってもいいかもしれない。
素晴らしい結論が出ました!